(松崎 2010) 自閉症の病態

自閉症の発症要因に関しては、星の数ほどの研究が行われているにもかかわらず、未だにはっきりとしたことはわかっていない。遺伝要因と環境要因のどちらが発症に寄与しているのかさえも、定説がない状態である。個人的には自閉症は症候群であり、単一の病態で説明することはできないのではないかと考えている。いずれにせよこの著者の指摘するように、大規模な疫学調査なしには病態の解明は不可能であろう。そして病態の解明なしには、効果的な治療法の確立はありえない。

【多分野連携と子どものこころの解明への試み】 子どものこころの分子生物学(解説/特集)

http://www.molcom.jp/common/img_item/img021/s_080204m29135.jpgAuthor:松崎秀夫, 大阪大学大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学連合小児発達学研究科浜松校
Source:脳21(1344-0128)13巻2号 Page138-145(2010.04)

Abstract:本稿では自閉症分子生物学研究について概説する。この領域には、まず自閉症発症要因の候補の発見、ついで発症要因を再現した自閉症動物モデルの検証というステップがあり、その方向性は遺伝要因と環境要因のいずれを重視するかによって大別される。臨床研究を基盤にして、遺伝要因・環境要因は有力な自閉症の原因として取り上げられるようになったが、いまだ大部分の症例は特発性で、いずれにしても自閉症の病態・有病率の推移をすべて単一で解釈しうる要素はない。現時点では、自閉症が多因子疾患である印象が強まっているが、あるいは自閉症に共通して見出される、未知の発症因子が存在するのかもしれない。今後、自閉症分子生物学研究には、自閉症の病態を統一して解釈し得る新たな理論の構築が期待される。それには大規模な疫学的調査が不可欠である。