(中島 2001) バイリンガル教育の方法 12歳までに親と教師ができること 第10章

バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること

第10章■バイリンガル教育への疑問

どのような行為にも、メリットとデメリットが存在する。何を行うべきか判断するときには、ニュートラルな立場で両者を天秤にかけなければならない。

バイリンガル育成否定論

「基本的には人間は生まれつきモノリンガルである。バイリンガルというのは同時に2つの宗教に属するようなものである。」(Jespersen 1922)

2言語使用は「精神の混乱を招く」(Saer 1923)

「これまで成人になってから2言語の混乱で悩む大人に何人も遭遇してきた。われわれは母語、あるいは第1言語を十分マスターするために、授業の媒介語として一言語のみを使用することを強く主張するものである。(モントリオール英語系公立学校校長組織団体, Lambert & Tucker 1972)

モノリンガルとバイリンガルでIQを比較すると、バイリンガルのほうが低い (多数の研究あり)

バイリンガル育成肯定論

「もちろん知的により発達している子どもであったからバイリンガルになったのか、バイリンガルであることが知的発達を助けたのか明らかではないが、バイリンガル児が知的面で優れていることは確かである。モノリンガル児は、これに対して、知的構造が単一で、一つのもので全ての知的タスクを行わなければならない。」(Peal & Lambert 1962)

ただしこの「バイリンガル児」は、完全なバイリンガル、いわゆるバランス・バイリンガルのことである。

  1. バイリンガルは思考の柔軟性がある
  2. 言葉に対する理解、言語分析に優れる
  3. 相手のコミュニケーション・ニーズに、より敏感である
  4. 言語による人種偏見を取り除く

これらの肯定論も、すべてバランス・バイリンガルを対象としている。否定論はバイリンガル非成功者を含めて考え、肯定論はバランス・バイリンガルだけを考えている点で、比較考察となっていないことが残念である。

セミリンガルという用語について

セミリンガルという用語は多岐にわたって使われているが、厳密には以下のような意味であり、言語学的に発展途上の状態では使うべきではない。

セミリンガル
人生の異なる時期にいくつかの言語を獲得したものの、いずれの言語においても熟達度が母語の話し手の水準に達していない人についていう。どちらの言語でも抽象的思考ができず、複雑な表現もできない多言語使用者のこと。(ロングマン応用言語学用語辞典(南山堂 1989))
  • 少数言語集団が十分な言語学習機会を与えられない状況は、典型的なセミリンガルと行っていいだろう
  • イマージョン方式中に出現する、いわゆる「一時的セミリンガル」は不適切な用法
  • どんな言語発達障害なのかが定義中にない。いわゆる言語発達障害も、特異性言語発達障害も両方含むと考えていいのだろう
まとめ