Bilingualism

第二言語学習に適した時期

日本人がバイリンガルを目指す場合、第二言語の学習をいつ始めるのが良いのかは良くわかっていないが、いつ始めるのが良くないかに関しては、ほぼ意見が一致している。言語学を専門とするトロント大学名誉教授の中島和子氏は、9〜13歳は母語の固定を再優先す…

(Vasilyeva, et al 2010) バイリンガルの言語間の非対称性

ヒトは、何かを考えるときに言語を使う。一般の日本人であれば、日本語を使って考えているはずだ。バイリンガルの場合も、思考は第一言語でおこなっていることが多いだろう。つまり一般的には、第一言語と第二言語との関係は対等でないと考えるのが妥当だ。…

(Petersen 2010) バイリンガル自閉症

バイリンガルの自閉症に関する研究は限られており、一定の見解は得られていないようだ。この研究では全般的にバイリンガル自閉症の言語スキルの高さが主張されているが、そもそも自閉症スペクトラムには様々な言語・知的レベルの症例が含まれており、個人的…

(Pham, Kohnert & Mann 2011) モノリンガル臨床医とバイリンガル患者

バイリンガルの言語障害に対する医療には、他の疾患にはない様々なハードルがある。特に両言語に対して治療を行うためには、通常は治療者自身がその二言語を自由に扱える必要があるが、誰もがそんな主治医を持てるわけではない。この研究ではコンピューター…

(Paradis 2011) バイリンガル失語試験

バイリンガル失語は非常にバリエーションの多い、評価困難な疾患である。そもそも元となるバイリンガル自体が、第一言語・第二言語の組み合わせ、各言語の習得年齢や環境、各言語の習得度といった多数のパラメータの影響をうけるため、多彩な状態をとりうる…

(von Hapsburg & Peña 2002) バイリンガルと聴力検査

モノリンガルと比較するとバイリンガルには多数の問題点があるが、聴力検査、特に言葉の聞き取り具合を調べる語音聴力検査も難しいものとなっている。単に第一言語、第二言語が何語なのかというだけでなく、それぞれの言語の熟達度がどうだったのかがわから…

(Hoff, et al. 2011) 早期バイリンガル発達

バイリンガルの言語発達は、各言語の「インプット」により、ある程度規定されてしまう。言語の学習環境が、バランスバイリンガルを目指すためには非常に重要なポイントとなるのだ。 つまり、カナダのエマルジョン方式のように、各言語のインプットを最適化す…

(Kambanaros & Grohmann 2011) バイリンガル失語症テストと方言

バイリンガル失語症の評価の問題には、症例ごとの様々な背景因子の違いももちろんあるが、「方言」という問題もある。この研究では「キプロス方言」に対して「ギリシャ語バージョン」がうまく機能したということであるが、方言と標準語の「距離」は様々であ…

(Gómez-Ruiz & Aguilar-Alonso 2011) バイリンガル失語検査の能力

バイリンガル失語には様々なパターンがあり、特に日本語を対象とした場合は、現時点では満足すべき性能の検査法は存在しない。本研究ではカタロニア語とスペイン語のバイリンガル患者を扱っているが、これらの言語に対しては比較的信頼性の高い結果が得られ…

(Goldstein, et al. 2010) バイリンガルの言語能力測定

バイリンガルの言語能力測定には様々な方法がある。測定の目的や環境などによって選択しなければならいのはもちろんだが、測定法の精度も重要な問題である。この報告は、単語平均長といった客観的な尺度よりも、親による熟達度評価のような主観的な尺度のほ…

(Verhoeven, et al. 2011) SLIとバイリンガルは、加算的に言語獲得を障害する

モノリンガルとバイリンガル、正常発達とSLI、これらの2×2の組み合わせで、様々な言語能力の測定をしたところ、SLIバイリンガルの能力が「加算的に」障害されていたという研究。バイリンガルとSLIとが合併しやすいこと、また合併症例が増加していることを考…

(Peristeri & Tsapkini 2011) バイリンガル失語症テスト

心理学では、複数の心理学的試験を組み合わせて行うことを「バッテリー」と呼ぶそうだ。 一般に、バイリンガル失語症の診断は、モノリンガルの失語症と比べるとはるかに困難だ。元々の背景因子としての「バイリンガル」の状態のパラメータ(言語の組み合わせ…

(Green, et al. 2011) トライリンガル失語症の診断

バイリンガル失語症の診断は、モノリンガルに比べると様々な困難がある。ひとつの理由は、もともとの言語状態が両言語で正常範囲でない場合が多いので、症状の適切な評価が困難であること、また各言語ごとに独立した評価が必要であり、さらに各言語ごとの評…

(Dollaghan & Horner 2010) バイリンガルの言語評価

バイリンガルの言語能力の評価は、非常に重要である。特に症状としての言語能力の低下が、本当の言語障害によるものなのか、あるいはバイリンガル学習中の一時的症状なのか、はっきりと鑑別する方法論が今のところ存在しない。バイリンガルに合併する特発性…

(Casimir, et al. 2010) バイリンガル移民の不眠症・うつ病・不安症

バイリンガルはモノリンガルに比較すると、精神的ストレスを受けやすい。そのため不眠症・うつ病・不安症などが発症しやすい状態にある。 この研究では、このような精神的状態の早期発見には不眠症状に注目すべきだとしている。バイリンガルの不眠症患者に対…

(Green, et al. 2010) バイリンガル失語の回復パターン

バイリンガルにおいては、それぞれの言語が脳のどの領域で処理されているかは一定していないと考えられている。それはバイリンガルにおける脳損傷患者の症状発現や言語の回復が、非常に様々なパターンを示すことからも明らかである。個々の症例で言語処理の…

(Thordardottir 2010) SLIバイリンガルの治療

SLIバイリンガルは増加しつつあり、治療法に関する研究も多数行われているにもかかわらず、臨床的効果が明らかな治療法は見つかっていない。その理由の一つは、SLIバイリンガルの個々の症例の背景因子が様々であることが挙げられよう。各症例の特徴に合わせ…

(Abutalebi 2009) バイリンガル失語の回復

バイリンガル人口の増加に伴い、バイリンガル失語の問題も拡大しつつある。しかし、その治療方法どころか、発生メカニズムや診断方法のガイドラインすら確立出来ているとはいえない。それはバイリンガル自体にバリエーションが多く、各言語をコントロールし…

(Paradis 2005) 第2言語学習と特発性言語障害

英語を第2言語として学んでいる小児の英語と、特異性言語障害(SLI)小児の話す英語とは、様々な面で類似している。そのため第2言語学習者の語学力評価は困難であり、しばしばSLIと誤診されやすい。これはバイリンガル教育における、非常に大きな問題である。…

バイリンガル失語症

バイリンガルに言語障害はつきものであるが、そのなかでも最悪の状態が「バイリンガル失語症」である。バイリンガル失語症と一口にいっても、例えば障害を受けているのが第一言語なのか第二言語なのか両方なのか、障害のタイプはウェルニッケ失語なのかブロ…

(Kilgore 2011) バイリンガルの語彙獲得

バイリンガルの語彙力は、言語に曝されるほど発達する。またバイリンガルにとっては、語彙の理解よりも産生の方が難しい。 The Plymouth Student Scientist, Vol 4, No 1 (2011) Vocabulary acquisition in bilingual children: Are they more delayed in En…

(Verhoeven, Steenge & Balkom 2011) バイリンガルSLIの診断マーカー

バイリンガルにおけるSLIの発生を抑えることは、現状では不可能である。早期に発見することができれば手遅れになる前に治療的介入を行うことができる。しかし、そもそもバイリンガル教育においては、正常な経過でも「一時的な言語障害」が発生することが知ら…

(Stavrakaki, Chrysomallis & Petraki 2011) バイリンガルSLI発現と各言語の特徴

バイリンガルにおけるSLIの発現には各言語の特徴が影響しているということを、客観的データを持って示した論文。英語・日本語のような、より言語間の距離が離れた組み合わせであれば、SLIの発生はより深刻であろう。 Clin Linguist Phon. 2011 May;25(5):339…

(菊池 n.d.) わが子をバイリンガルにする方法

わが子をバイリンガルにする方法 タイトルに惹かれて読んでは見たものの、あまり参考になるような内容はありませんでした。 個人的には、英語で話しかけたい、英語の歌を沢山聞かせたい、本を読んであげたい、一緒に英語の DVD が見たいなどあるのだが、一体…

(酒井 2005) (鄭 2007) 第2言語習得と左下前頭回

大脳の左下前頭回が言語表出機能を担っているという知見は、古くから存在していた。これは、第2言語習得度とfMRIでの左下前頭回機能が相関しているという興味深い論文。 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) Vol. 25 (2005) , No. 2 pp.153-164 言葉の脳内処理…

(Pihko, et al. 2007) バイリンガルSLIの脳機能

現時点では、残念ながらバイリンガルSLIを早期に客観的に診断する方法はない。「一時的セミリンガル」と区別がつかないのだ。バイリンガルSLIには早期介入が有効と言われて入るものの、早期診断ができない以上有効な治療手段がないということになる。しかし…

学童期の英語学習環境は2年間が限度

日本語力をある程度維持しようと考えた場合、学童期における英語学習環境はせいぜい2年以内に抑えなければならない。根拠としては、以下のような意見が挙げられる。 (角山, 上野 2003) バイリンガルと言語障害 (2)日本語 海外に滞在している日本人家族の子弟…

学校ではどの言語で学習すべきか?

多言語社会にとっては、学校教育で使用する言語の選択は大きな問題となる。特に公用語と現地で主に使われている言語が異なる場合、状況はクリティカルである。言語は単なる情報伝達手段ではなく、考える手段であり、文化そのものだからである。地域社会・民…

(湯本 2003) イマージョン・プログラム

イマージョンプログラムとは、学校教育における第一言語・第二言語の使用状況をコントロールすることにより、バイリンガル育成を目指す教育方法である。カナダはイマージョンプログラムを採用することにより、世界で最もバイリンガル教育を成功させている。…

言語間の距離

世界には様々な言語が存在する。互いにとてもよく似た言語もあれば、全く違う言語もある。言語学では、この言語間の違いの程度を「距離」と表現することがある。よく似た言語は距離が近くて、相違点が増えるほど距離が遠いというように表現する。カナダでの…