(中島 2001) バイリンガル教育の方法 12歳までに親と教師ができること 第7章

バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること

第7章*海外子女とバイリンガル教育

全日制の日本人学校バイリンガル

海外子女の受け入れ先としてまず挙げられるのが、全日制の日本人学校である。

海外子女をバイリンガルに育てるということは、母語である日本語(L1)と、その土地の言語である外国語(L2)をバランスを取って発達させることである。海外は外国語を育てるのには恵まれた環境であるが、日本語の発達には適していない。したがって、現地語を習得すると同時に、どのぐらい母語保持に成功するかが問題の鍵となる。
(中略)
このような状況にある子供たちの母語離れを防ぎ、アイデンティティを保護するための学校をフィンランドのスクットナブ=カンガスらは「シェルター・スクール(母語・母文化保護学校)」と呼んでいる。海外子女のための全日制日本人学校はシェルタースクールの一例といえよう。

全日制日本人学校の目的は、「母語の保護」にある。このため、日本語中心の教育プログラムが組まれている。バイリンガル育成の視点からはL2への接触が少なすぎるので、バランス・バイリンガルは育たない。

現地校と補習校の組み合わせで育つバイリンガル

もうひとつの選択肢が、現地校の選択である。現地校だけでは日本語が失われるため、バイリンガルとなるためには日本語の補習も必要となる。

英語圏に来た多くの日本人子弟は、「現地校」と「補習校」の組み合わせで学齢期を過ごしている。もちろんニューヨークのような大都会では、進学塾が進出していて、日本人の子どもの補習校離れ、日本人学校離れが問題になってきている(朝日新聞 1996.6.18)。しかし、話をすすめるために、日本語で学習するところという意味で、進学塾も含めて「補習校」ということばをここでは使いたいと思う。

現地校と補習校の組み合わせにより、パーシャル・イマージョン方式のような状態となるわけだ。問題は、両者のカリキュラムがバラバラに設定されているため、うまくいくかどうか「運」に左右されること、たとえうまく行ったとしてもトータル・イマージョンほどの効果は期待できないことである。

トロント補習校の調査

カナダのトロントで公立小学校に通い、週末は補習校で学ぶ海外子女が、一方で日本語を保持しながらどのように英語を習得していくか、日本語力の保持と英語習得との関係を調査したことがある。この調査はカミンズ、スウェインらと共同で1979年から1986年にかけて2度にわたって行ったものである。

結果は以下のとおり。対象はカナダに来て6ヶ月から6年9ヶ月までの児童で、年少児は小学校2,3年生、年長児は5,6年生。

  • 英語の会話力
    • 会話力の伸びに必要な期間には、2年から5年の個人差がある
    • 発音は年少児が伸びやすいが、それ以外の項目は全て年長児のほうが伸びる
  • 英語の読解力
    • アメリカ人小学校2年生のレベルに近づくには、年少児では4〜5年、年長児では2〜3年かかる
  • 日本語の会話力
    • 圧倒的に年長児のほうが上
  • 日本語の読解力
    • 年少児も年長児も次第に低下
    • 4年も経過すると、日本の子どもには追いつけなくなる

小学生にとっては、日本語の維持は非常に難しい。小学生でのバイリンガル教育でバランス・バイリンガルを目指す場合の最大の障壁であろう。

  • 英語力を左右する因子は?
    • 英語語彙・英語読解力共に、入国時の年齢よりも日本語の読解力が左右する

「すでに1つの言語で読む力を持っているものは、次の言語で読む力をつけるときに、どんなに2つの言語が異なっていても有利である」(Goodman 1970)

まとめ
  • 予想に反し、入国時の年齢の若さはバイリンガル育成に良い影響は与えない
  • バランス・バイリンガル育成の視点からは、英語力の伸び・日本語力の維持の両面において、日本語力が完成されている児童ほど成功しやすい