過渡期バイリンガリズムの何が問題なのか

以前、バランス・バイリンガルを目指すのであれば、米国で行われているバイリンガル教育「過渡期バイリンガリズム」は向いていないと書いた。

過渡期バイリンガリズム transitional bilingualism
主要言語の授業についていけるようになるまで一時的に2言語を併用するもの。米国のバイリンガル教育はこれで、最終目標は主要言語(英語)のスキル上達。母語がどうなるかは気にしない。

過渡期バイリンガリズムの問題点は、母語の保護は自己責任でやらなければならず、最終的にどうなろうかまったく問題にしていないこと。よほど頑張らなければ第1言語は維持できず、年齢相応のレベルは保てない。アメリカで日本語塾の講師をしていた市川氏が指摘するように。

アメリカのように学校も社会も英語で満ちあふれている状況では、家庭だけが日本語を育てる拠り所である。週一回の日本語補習校の授業や週数回しか通わない塾だけでは、日本語の学習量は全然足りない。補習校や塾をペースメーカーにして、家庭で毎日、親が子どもの日本語力を育てていかなければならない。そうしなければ、子どもは、日本語を使用する機会を失い、驚くほど速く日本語の力を失っていくだろう。

その結果、帰国子女の語学力は必然的に低下する。帰国子女枠の中ではレベルが相当高い慶應大学でも、年齢相応の言語レベルをなんとか保っているのは1割程度しかいない。

大学 偏差値
東京大 70
京都大 67.5
東京外語 67.5
一橋大 67.5
慶応義塾 65.5
早稲田 65.5
大阪大 65
御茶ノ水女子 62.5
九州大 62.5
神戸大 62.5

実際、英語を聴き取る能力は英語に日々触れるという経験がない人と比べ、当然いいわけですし、また択一程度の英語の問題などは慣れていますから、帰国子女の大学生だとTOEICで800点、900点クラスはざらにいます。学生どうしで、誰々は「帰国」だから英語はすごい、パーフェクトだみたいな話が出るのも無理もありません。
しかし、そういった「帰国生で、すごい」学生の答案を採点したり、発音を聞く機会のある身からすれば、9割かたが水準以下です。

まとめ
  • アメリカ式の「過渡期バイリンガリズム」は母語の保護は自己責任で行わねばなない。
  • 結果として年齢相応の言語水準を維持している帰国子女は非常に少なく、偏差値65以上の慶應大学ですら9割がたが水準以下。
  • バランス・バイリンガルを目指すのであれば、この方法論は論外と言わざるをえない。