セミリンガル、あるいは特異性言語障害を伴うバイリンガル

バイリンガル教育の方法 第10章」では、セミリンガルの定義としてロングマン応用言語学用語辞典からの引用を使っていた。

セミリンガルという用語について

セミリンガルという用語は多岐にわたって使われているが、厳密には以下のような意味であり、言語学的に発展途上の状態では使うべきではない。

セミリンガル
人生の異なる時期にいくつかの言語を獲得したものの、いずれの言語においても熟達度が母語の話し手の水準に達していない人についていう。どちらの言語でも抽象的思考ができず、複雑な表現もできない多言語使用者のこと。(ロングマン応用言語学用語辞典(南山堂 1989))

そして第1章には、このように書かれている。

成長期の子どもの場合

子どものバイリンガル教育の問題は、例えば上のような状況を乗り越えて、どうしたら2言語がより良く発達するか、どのような教育的介入をすればマイナスの影響を最小限にとどめ、年齢相応の学力が獲得できるかなどについて、長期的な構えで考えなければならないのである。2言語の発達途上でおこるある一時期の現象を問題にして、バイリンガルではなく、セミリンガル(両方のことばの力が低い)であるなどと決めつけてしまってはいけない。この意味で、子どものバイリンガルは常に2つのことばの力を流動的に捉えて、長い目で見る必要がある。

セミリンガルは発達途上の「一時期の現象」ではなく、永続的な言語障害なのである。
ところで、言語障害は二つのグループに分けることができる。通常、言語障害は他の何らかの知的障害を伴うか、あるいは言語の学習機会が不十分な場合に生じる。一方でそのような明らかな原因を伴わない言語障害が存在し、特異性言語障害 specific language impairment (SLI) と呼ばれている。

Specific language impairment (SLI) is a developmental language disorder that can affect both expressive and receptive language. SLI is defined as a "pure" language impairment; meaning that is not related to (or caused by) other developmental disorders, mental retardation, neurological (brain damage), or hearing impairment.

今問題にしているのは、通常の言語障害ではなく、特異性言語障害の方である。セミリンガル(あるいはダブルリミテッドバイリンガル)という用語は、言語障害も特異性言語障害も区別していないため、何を指すのかが曖昧になってしまう。もともと知的障害があったために、不完全なバイリンガルとなった場合も含まれてしまうからだ。よって今後はできるだけ「特異性言語障害を伴うバイリンガル」あるいは「SLIバイリンガル」という用語を使いたいと思う。