(酒井 2005) (鄭 2007) 第2言語習得と左下前頭回

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/08/Gray726_orbital_part_of_IFG.png/300px-Gray726_orbital_part_of_IFG.png大脳の左下前頭回が言語表出機能を担っているという知見は、古くから存在していた。これは、第2言語習得度とfMRIでの左下前頭回機能が相関しているという興味深い論文。

高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
Vol. 25 (2005) , No. 2 pp.153-164

言葉の脳内処理機構

酒井 邦嘉1)
1) 東京大学大学院 総合文化研究科相関基礎科学系
(受稿日 April 10, 2005)
要旨
本総説では, 人間の脳における言語処理にかかわる以下の3点の基本的問題について議論し, 言語の脳マッピング研究における最近の進歩について概説する。第1に, 文理解の神経基盤がその機能に特化していることを示す最初の実験的証拠を紹介する。具体的には, 最近われわれが発表した機能的磁気共鳴映像法 (fMRI) や経頭蓋的磁気刺激法 (TMS) の研究において, 左下前頭回 (IFG) の背側部が, 短期記憶などのような一般的な認知過程よりも文理解の統語処理に特化していることを証明した。この結果は, 左下前頭回が文法処理において本質的な役割を果たしていることを示唆しており, この領域を「文法中枢」と呼ぶ。第2に, 第2言語 (L2) 習得の初期段階において, 左下前頭回の活動増加が各個人の成績上昇と正の相関を示すことが最近明らかになった。これらの結果により, 第2言語習得が文法中枢の可塑性にもとづいていると考えられる。第3に, 外国語の文字と音声を組み合わせて新たに習得した場合に, 下側頭回後部 (PITG) を含む「文字中枢」の機能が学習途上で選択的に変わることを初めて直接的に示した。システム・ニューロサイエンスにおけるこうした現在の研究の動向は, 言語処理において大脳皮質の特定の領域が人間に特異的な機能を司ることを明らかにしつつある。
Key words: 言語, 文処理, 文法中枢, 文字中枢, fMRI
http://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/25/2/25_153/_article/-char/ja
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タイトル: 脳科学的アプローチによる第二言語習得研究

著者名: 鄭 嬬嬉
発行日: 2007-03-27
言語: ja_JP
出現コレクション: 03 博士学位論文の要旨及び審査結果の要旨 (Summary of Thesis(DR))

はじめに: 第二言語習得研究は、第二言語の知識表象や処理過程、及び第二言語習得のメカニズムの解明を目的とし、言語学、心理学、人類学、社会学などの様々な理論に基づいて研究がなされてきた。近年、科学の発展に伴い健常人を対象とする脳科学的アプローチによる言語研究や心理学研究が盛んに行なわれ、言語や記憶などに関する神経基盤が解明されつつある(Gazzaniga, Ivry, and Mallgun, 2002)。これまで、脳科学的アプローチによる第二言語習得研究は、その多くは母語第二言語が脳内において共通の領域で処理されているのか、あるいは異なる領域で処理されているのか、ということが主な研究テーマであった。これまでのところ、第二言語の習得年齢や習熟度が第二言語の処理時の脳活動に影響することが示唆されている(Perani and Abutalebi, 2005)。しかし、これらの研究の殆どがこれまでの言語学的・心理学的アプローチによる研究によって蓄積された第二言語習得研究の成果を取り入れたものではなく、単語処理や文処理において二言語の脳内表象の違いを記述するに留まっている。また、その多くの研究が欧米の言語を対象とし、日本語や韓国語のようなアジア言語を対象とした研究が少なく、言語体系の違いなどから研究結果の一般化が難しいのが現状である。さらに、これまでの研究は第二言語が日常的に使われる環境(多言語環境)に住む第二言語話者を主に対象としているため、日本や韓国のような第二言語が日常的に使われていない環境(外国語環境、モノリンガル環境)に住む第二言語話者という観点からの研究は少ないのが現状である。したがって、これまでの第二言語習得研究の理論や成果を考慮し、脳科学的アプローチによる実証的研究、また外国語教育にも応用可能な脳科学研究が必要であると考える。本博士論文では、これまで蓄積された言語学的・心理学的アプローチと脳科学的アプローチを統合しながら、第二言語習得メカニズムの解明を試みる。

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