(中島 2001) バイリンガル教育の方法 12歳までに親と教師ができること 第3章

バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること
今日は第3章で勉強

第3章●バイリンガル教育の理論

カミンズの「2言語共有説」

では、実際に2つの言葉がバイリンガルの頭の中で、どのように繋がっているかということだが、まず、図を見ていただきたい。この図は、2言語が互いに関係があるといっても、表層面と深層面では関係の度合いが違っているという大きな枠組を示したものである。もちろんことばは当然それぞれ別の音声構造、文法構造、法規法を持っているから、表面的にはまったく違う2つの言葉に見えるが、その真相では共有面があるというのである。これを「2言語共有説」「思考タンク説」、あるいは氷山の形に似ているので「氷山説」と呼ぶこともある。

たしかに言語間には共通部分があるので、言わんとすることはわからなくはない。しかし、言語間の共通部分の大きさは、言語の組み合わせによってまったく異なる。共通部分が大きければ共有面は大きいし、組み合わせによってはほとんど共有面がない場合も考えられるのではないか?

2言語相互依存の原則

カミンズはことばの力を「会話面」と「認知・学力面」に分けて、互いに深く関係しあうのは主に「認知・学力面」の方だと言っている。そして、図7を示して、人とコミュニケーションをする場合に、どの程度認知力を必要とし、またどのくらい場面や文脈の助けがあるかという2つの視点から「会話面」と「認知面」のことばの力の違いを明らかに使用としている。

これは理解できる。日本語で「正義」という概念が理解できていても英会話へのメリットは少ないが、英語の 'justice' という単語の意味を解釈することにはおおいに役立つ。しかしこの原則も、言語の組み合わせによる影響は避けられない。四季のない国では天候を表現する単語は少ないだろうし、世の中には数を表す単語をもたない言語すらある。認知面を共有しにくい言語の組み合わせがあることは、認識すべきだろう。

2004年に発表された調査では、この部族には「1」「2」「沢山」を表す言葉があると思われていましたが、「1」と思われていた言葉は実際には1から4の数を表し、「2」と思われていた言葉は5か6を表していることが分かり、正確な数字を表す言葉が全く無いということが判明しました。

2言語発達のカウンター・バランス説:北米で日本人の子どもが英語を学習する場合(海外子女教育)

このような場合は、極力家庭でのL1使用を心がけ、L1への心的態度が積極的になるように努力しないと、L1とL2のバランスがとれない。また家庭では会話力の保持はできても、「認知・学力面」の語学力を伸ばすことが難しいので、補習校や通信教育などでL1による学習をすることがアディティブ・バイリンガルを生み出すためにはどうしても必要である。つまり、「家庭環境」に加えて「学校環境」によるL1のサポートが必要なのである。

第2章にもあったように、母語の保持・母語の上達が最大の難関である。そもそも米国式の過渡的バイリンガリズムでは、この部分はまったく考慮すらされていないので、米国できちんと対策をたてることはかなり難しい。

過渡期バイリンガリズム transitional bilingualism
主要言語の授業についていけるようになるまで一時的に2言語を併用するもの。米国のバイリンガル教育はこれで、最終目標は主要言語(英語)のスキル上達のみ。母語がどうなるかは興味の対象外。

まとめ
  • ある言語を完全に獲得していれば、別の言語の獲得も容易くなる。完全なバイリンガルを目指すのであれば、母語の完全な獲得をまず目指すべき。
  • 特に米国の過渡期バイリンガリズム方式においてはL1の維持はまったく考慮されていないため、補習校や通信教育などでL1を強力にサポートしていく必要性がある(それでも足りないので帰国後問題になるわけだが)。