(中島 2001) バイリンガル教育の方法 12歳までに親と教師ができること 第4章
第4章■家庭で育てるバイリンガル
バイリンガルを育てる上での母語の役割
バイリンガルの基礎作りで一番大事な家庭の役割は、第2,第3の言葉の基礎になる母語、すなわち第1の言葉(L1)をしっかり育てることである。
別にバイリンガルの話を持ち出すまでもなく、母語の役割は大きい。何しろ(通常の人は)母語で思考しているのである。母語が成熟する前に第2言語での学習を始めると、実年齢は上がるのに母語年齢は上がらない。母語が年齢相応のレベルにないということは、知能が年齢相応でない、つまりIQが低い、知能障害ということだ。
アメリカの教育学の権威であるブルームは、17歳の知能を100とすると、その20%は1歳までに伸び、50%は4歳までに、80%は8歳までに、そして92%は13歳までに伸びると言っている (Bloom 1964)。
この「知能の伸び」は、そのまま「母語の発達」を示すと言っていいだろう。13歳程度までは母語を成熟させておけば、最悪でもIQ92程度は確保できるということか。
フィンランドのバイリンガル学者スクットナブ=ガンガスは、母語・母文化を子どもの「ルーツ」と呼び、異言語環境の中で「ルーツ」を伸ばすことが何よりも大事だと言っている。そして異言語環境にあるがために、ルーツの成長が阻まれるということは、子どもの基本的な人権の侵害であるとまで言っている。さらに図のように蓮の花にたとえて、ルーツがしっかりしたモノリンガル、ルーツである母語がしっかり育ち、しかも第二のことばもすくすく伸びたアディティブ・バイリンガル、母語の発達が阻まれ、ルーツをもたない言語を自分の強い言葉とするサブトラクティブ・バイリンガルを対比して示している (Skutnabb-Kangas 1981)。