(中島 2001) バイリンガル教育の方法 12歳までに親と教師ができること 第5章

バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること
第5章です。

第5章◎イマージョン方式のバイリンガル教育

イマージョンとは 'immerse' という動詞から来たことばで、「その言葉の環境にトータルに浸る」という意味です。似たことばにサブマージョンということばもありますが、これは「溺れて浮かび上がれない」というような意味です。日本人の子どもがある程度英語が分かる状態で留学すれば「イマージョン」で、まったくわからない状態での留学は「サブマージョン」になります。

語学教育専門家スターンは、イマージョン方式のバイリンガル教育を次のように定義しています。

「児童・生徒の第1言語や全人格的な発達を犠牲にすることなく、第2言語力を高度に伸ばすために、学校教育の全部、または一部を第2言語を使用しておこなう学校教育である」(Stern 1972: 1, 1976)

イマージョン方式のいろいろ
早期トータル・イマージョン early total immersion
JK(Junior Kindergarten) は英語(L1)のみ、SK(Seniro Kindergarten) から小学校低学年まではフランス語(L2)のみ。その後英語(L1)による授業を少しずつ取り入れていく。
パーシャル・イマージョン partial immersion
JK〜初等教育を通じて、L1とL2を50%ずつおこなう。両言語が混乱する子どもがもっとも多い。
中期イマージョン delayed immersion/middle immersion
小学校中学年からフランス語(L2)のみ。6年から英語(L1)をすこしずつ導入。
後期イマージョン late immersion
小学校1年からフランス語(L2)を少し導入。中学から英語(L1)20%、フランス語(L2)80%。
教科別補強フレンチ expended French
小学校1年からフランス語(L2)を少し導入。高校から特定の科目だけフランス語(L2)のみ。
トライリンガル・イマージョン
まずフランス語(L2)の基礎をしっかりつけ、少しずつ英語(L1)を導入。その後中国語、日本語、アラビア語のいずれか(L3)を導入していく。
成果
フランス語(L2) 英語(L1) 学力
早期トータルイマージョン 聴解力15.2, 読解力14.8 あまり差はない? あまり差はない?
パーシャル・イマージョン トータルより劣る あまり差はない? あまり差はない?
中期イマージョン トータルより優れている あまり差はない? あまり差はない?
後期イマージョン 聴解力12.0, 読解力18.2 あまり差はない? あまり差はない?

オタワ市の教育委員会が行った2つの調査によると、イマージョン離れの原因が英語の読み書きの遅れであると教師が認めたケースはそれぞれ64%、80%だったそうである(Morrison 1986)。

特に、日本語のように漢字習得に時間のかかることばを第1言語とする場合は、英語と同時に国語の授業を設けないと日本語のほうが間に合わないかもしれない。

成功の要因

小学校レベルの外国語教育の試みはこれまではイギリスでもアメリカでもヨーロッパでもどれも不成功に終わっており、イマージョン方式のバイリンガル教育の出現によって初めて成功したという(Stern 1977)。しかも会話力だけでなく、読み書きを含めてかなり高度な外国語の力を獲得することが可能になったのである。これは画期的なことで、イマージョン方式は今後日本を含め、世界の各地で広範囲に応用される可能性を持っている。

成功の要因は?

  1. ことばの「使い分け」がはっきりしている
  2. 毎日のフランス語(L2)の接触量が圧倒的に多い
  3. 英語(L1)との接触も家庭環境その他周囲の環境の中で十二分に与えられる
  4. 英語とフランス語の距離が近い
  5. イマージョン方式を受けるかどうかの選択が当人や親に任されている
  6. サブマージョンがありえない
  7. 自然習得(コミュニケーション・教科学習の道具として無理に使わせる)であり、文法などは教えない
  8. 十分なサイレントピリオド: 最低1.5年は必要(Krashen 1982)
  9. 親・教師・社会の目的意識が高い
  10. 教師自身にバイリンガルが多く、悩みや問題を理解できる
  11. 幼児期から高校までの一貫したプログラム
問題点
  1. 文法等の間違いが訂正されず、教室内方言ができる
  2. サイレントピリオド→聞く力と話す力の差
  3. フランスの文化学習を伴わない
  4. 保持が難しい: 世界中のバイリンガルの共通問題
まとめ
  • カナダのイマージョン方式は、米国式の過渡期バイリンガリズム方式に比べて、母語の保持が十分考えられた理想的なバイリンガル教育法である
  • ただし日本語には漢字や文体高度化といった相違点があり、そのままの形での導入はうまくいかないだろう
  • 幼児期から高校までの一貫したプログラムが必要
  • 今からめぐちゃんに適応することができないのが、とても悔しい