(市川 2001) 英語を子どもに教えるな 第3章、第4章、第5章、終章

英語を子どもに教えるな (中公新書ラクレ)

第3章 バイリンガル幻想を検証する

  1. なぜ幼児期からの英語学習を望むのか?
  2. 「適度な」期待と「過度な」期待
  3. なぜのびのびとした子育てができないか?
  4. 子どもの時から学べばバイリンガルになるか?
  5. ネイティヴのようになる必要があるのか?
  6. 国際社会を生き抜くために「ペラペラ」でなければだめか?

これは「幻想」というよりも「価値観」の問題のように思う。個人的には、子どもにバランス・バイリンガルを目指すこと自体には、十分合理性があると思う。問題は、成功率の高い方法論があるかどうか、そして失敗したときのリスクがどの程度なのか、そこを明らかにすることがまずは重要だ。

第4章 日本で進む早期英語教育の実態

我々の目的から外れるので省略。

第5章 外国人との「対決」が生む国際感覚

重要な問題とは思うが、現時点で考慮すべき問題ではない。

終章 親が留意すべき10のポイント

【ポイント1】学習の開始時期にこだわるな
【ポイント2】脳の世界は謎だらけ、教材・教授法に惑わされるな
【ポイント3】親子の「対話の質」を高めよう
【ポイント4】「聞く力」「質問する力」を鍛えよう
【ポイント5】「読み聞かせ」で「聞く力」「読む力」を養おう
【ポイント6】子どもの「感性」を磨こう
【ポイント7】子どもの「選択力」を育もう
【ポイント8】子どもの「リサーチ力」を高めよう
【ポイント9】外国人との「生きた交流」を体験させよう
【ポイント10】英語力は一生かけて身につけるものと覚悟する

何のことはない、裕子がほとんど実践できていることばかりだ。ポイント1を除けば。

【ポイント1】学習の開始時期にこだわるな

結局、子どもは、大人よりも英語学習に向いていると決め付けることはできない。ただ、子どもが得意な部分と大人が有利な部分とがあるのは事実だろう。したがって、子どもの時と大人になってからでは、学習時のポイントが異なる。この点に気をつけて英語を学ぶことが大事である。

そうなのである。意外にも、バイリンガル教育や第2言語学習で年齢が低いほど有利な点は唯ひとつ、「第2言語の発音」だけである。それ以外は実は年長者のほうが有利。それは「バイリンガル教育の方法 第7章」でも取り上げたとおりである。

  • 英語の会話力
    • 会話力の伸びに必要な期間には、2年から5年の個人差がある
    • 発音は年少児が伸びやすいが、それ以外の項目は全て年長児のほうが伸びる
  • 英語の読解力
    • アメリカ人小学校2年生のレベルに近づくには、年少児では4〜5年、年長児では2〜3年かかる
  • 日本語の会話力
    • 圧倒的に年長児のほうが上
  • 日本語の読解力
    • 年少児も年長児も次第に低下
    • 4年も経過すると、日本の子どもには追いつけなくなる

英語力の発達程度で一番目立つのが「発音」なので、発音習得に有利な年少のうちに英語を学ぶほうがいいと思われがちだ。しかし第2言語の学習で一番重要なのは、発音ではない。年齢相応の読解力が伴わなければ、美しい発音など何の意味もない。そして発音以外のすべての項目は、第1言語をきちんとマスターしてからの方がうまくいくし、第1言語の維持・発達にも有利となる。そしてその理由は、Cumminsが教えてくれている。

カミンズの「2言語共有説」

では、実際に2つの言葉がバイリンガルの頭の中で、どのように繋がっているかということだが、まず、図を見ていただきたい。この図は、2言語が互いに関係があるといっても、表層面と深層面では関係の度合いが違っているという大きな枠組を示したものである。もちろんことばは当然それぞれ別の音声構造、文法構造、法規法を持っているから、表面的にはまったく違う2つの言葉に見えるが、その真相では共有面があるというのである。これを「2言語共有説」「思考タンク説」、あるいは氷山の形に似ているので「氷山説」と呼ぶこともある。

第1言語をしっかりマスターすることは、そのまま第2言語の土台作りになる。そして十分な土台のないところに無理に第2言語をつくろうとするとどうなるかは、Skutnabb-Kangasが示している。

フィンランドバイリンガル学者スクットナブ=ガンガスは、母語・母文化を子どもの「ルーツ」と呼び、異言語環境の中で「ルーツ」を伸ばすことが何よりも大事だと言っている。そして異言語環境にあるがために、ルーツの成長が阻まれるということは、子どもの基本的な人権の侵害であるとまで言っている。さらに図のように蓮の花にたとえて、ルーツがしっかりしたモノリンガル、ルーツである母語がしっかり育ち、しかも第二のことばもすくすく伸びたアディティブ・バイリンガル母語の発達が阻まれ、ルーツをもたない言語を自分の強い言葉とするサブトラクティブ・バイリンガルを対比して示している (Skutnabb-Kangas 1981)。

まとめ
  • 第2言語獲得で年少児が有利なのは、発音だけ
  • バランス・バイリンガルの育成には、第1言語を完全にマスターしてからの方が有利