(澤田, 他 2010) アスペルガーと鍼灸

母子ともに鍼灸を行うことにより、母親のうつ状態とともに子の症状も軽快したという症例報告。鍼灸は盲検ができないので、有効性を客観的に立証することは困難。対症療法の選択肢としては、あってもいいのかもしれない。

アスペルガー障害をもつ女児に対する鍼灸治療(原著論文/症例報告)

Author:澤田和代(まゆ鍼灸院), 北川善保, 坂口俊二, 郭哲次
Source:全日本鍼灸学会雑誌(0285-9955)60巻4号 Page737-743(2010.08)

Abstract:【目的】アスペルガー障害は、関心と活動の範囲が限局的で常同的反復的であるとともに、自閉症と同様のタイプの相互的な社会的関係の質的障害によって特徴づけられる。今回、アスペルガー障害と診断された女児に対して、その背景にあるうつ症状を抱える母親との共生関係に着目し、母子ともに鍼灸治療を行うことで、双方の身体症状の改善が得られたので報告する。【症例】小学生女児、12歳。[主訴]全身倦怠感。[愁訴]頸肩のこり感、頭頂部から側頭部の痛み、腹部不快感、寝汗、手足のほてり。[現病歴]X年5月より全身倦怠感を訴え不登校となり、その後、家族以外との接触ができなくなった。X+1年5月より、心療内科での治療と市の教育カウンセリングを受けながら鍼灸治療開始した。またこれに先立ち、X年9月より掌蹠膿疱症による関節痛とうつ症状を訴える母親の鍼灸治療を開始した。[女児の鍼灸治療]補益心脾、督脈通陽を目的に左神門(HT7)、右三陰交(SP6)、大椎(GV14)に円皮鍼貼付、背部、前腕と下腿の陽経、および頭部と手足井穴に接触鍼、督脈上の圧痛点に八分灸を三壮行った。治療は1-2週に1回の間隔で行った。[評価]女児と母親からの詳細な聴き取りを行い、特に女児には身体のだるさ、熟睡感、手足の火照り、頭痛、便通について3件法で回答してもらい得点化した。【結果】11ヵ月間に28回の鍼灸治療を行ったところ、女児の身体症状は30-50%改善した。さらに女児は、自治体が行う不登校児のための適応指導教室にも通学可能となり、学校行事にも出席できるようになった。また、母親の身体症状も女児とほぼ同様に推移し安定した。【考察および結語】女児の身体症状は、女児自身の思春期を迎えた心身の不安定さに母親の病状が関連して表出した可能性が示唆された。今回は、母子の共生関係に鍼灸師(による鍼灸治療)が介在することで、鍼灸治療そのものの効果に加え、支持的・受容的対応が奏効したものと考えた。(著者抄録)