言語間の距離

世界には様々な言語が存在する。互いにとてもよく似た言語もあれば、全く違う言語もある。言語学では、この言語間の違いの程度を「距離」と表現することがある。よく似た言語は距離が近くて、相違点が増えるほど距離が遠いというように表現する。

カナダでのトータルイマージョンによるバイリンガル学習の成功率が高い理由の一つは、英語とフランス語の距離が近いためと言われている。その根拠のひとつとして,言語を学習する時に、第一言語第二言語の距離が近いほど、速く習得できることが知られている。

学習者の母国語と目標言語(学ぼうとしている外国語のこと)との言語学的距離が、外国語習得に影響を及ぼすということを証明する1つの調査があります。それは、アメリ国務省の付属機関、Foreign Service Institute (以下、FSI) が1973年に実施した調査です。
FSIの調査によると、アメリカ人国務省研修生がフランス語・ドイツ語・スペイン語などの外国語における日常生活に支障のないスピーキング能力を習得するのに約720時間かかったのに対して、日本語・中国語・朝鮮語アラビア語などの4つの言語で同等の能力を習得するには、約2400 - 2760時間の集中的な特訓が必要であった、と言います。

(表2)アメリカ人国務省研修生が習得するのにかかった時間

フランス語・ドイツ語・スペイン語 約720時間
日本語・中国語・朝鮮語アラビア語 約2400 - 2760時間

(三枝幸夫著「TOEICガイダンス」より)

FSIの調査は、目標言語と母語との距離が遠ければ遠いほど、その外国語の習得が困難になることを示しています。ゆえに、同じ「外国語」として英語を学ぶとしても、日本人はゲルマン語やロマンス語系の語を母語とする話者よりも習得が遅いのは当然です。

言語間の距離は第2言語学習の難易度と相関し、バイリンガル成功の可否を大きく左右する。ではなぜこのようなことが起こるのだろうか? その理由のひとつは、言語中枢の機能に限界があることなのかもしれない。

人類が言語を獲得して、5万年程度経過したと言われている。

言語を獲得する前の人類は2足直立歩行して体形は現生人類とおなじでも全くサルと同じだった。たんなる大型哺乳類の一種だったのだ。いつ頃人類が言語を獲得したかははっきり解っていないが、4〜5万年前に起こった人間への大躍進の原動力は言語を獲得したことだ。(J.ダイアモンド著「人類はどこまでチンパンジーか」新曜社 等参照)

この5万年間に脳の中での言語を処理する機能は進化を続け,現在の言語中枢が形成されてきた.第1言語が年齢相応のレベルに到達できないような人はほとんどいないのは,この言語中枢が適切に進化してきたことの現われだろう.一方で,第2言語の獲得に挑戦しながら,年齢相応のレベルに到達できずに失敗する人は数多くいる.モノリンガルを前提に進化してきた言語中枢でバランス・バイリンガルを可能にするためには,いくつかの条件が必要だと考えるのが自然だろう.

その条件の一つが,言語間の距離が近いことだ.モノリンガル用にチューニングされた言語中枢でバイリンガル処理を実現させるためには,両言語を構成するパーツに共通部分が多ければ多いほど難易度が低くなる.

英語と日本語で考えてみると、その距離はかなり離れている。残念ながらこの組み合わせは,バランス・バイリンガルの実現にはあまり向いていないのだろう。

まとめ
  • 日本語と英語は言語間の距離が離れており,バランス・バイリンガルは適さない組み合わせである