(吉岡, 関野 2010) 自閉症とSRP

自閉症スペクトラム障害にとって、歯周病歯槽膿漏は非常に厄介な問題である。通常の方法では対応できず、診療困難な場合も多いと考えられる。
スケーリング・ルートプレーニングとは、歯石やプラークを除去する方法の一つ。スケーラーと呼ばれる器具を使って超音波で歯石等を完全に除去した後、ルートプレーニングで歯根部を平滑化する方法。このような方法のほうが適している症例もたしかにあるだろう。
しかし最も重要なことは、医療側と患者の信頼関係に尽きるのではないだろうか。この症例も、「初診から10年間は、患者の歯科治療に対する不適応行動や歯科衛生士の歯周治療に対する経験不足から、歯周疾患を診断するための検査が行えなかった。」とある。検査ができなければ適切な治療法も選択できない。「SRPが効果があった」というよりも「行動変容法により適切な治療へ導くことができた」ということが重要だったと考えるのは間違っているだろうか。

SRPを行ったことで行動変容の見られた自閉症スペクトラム患者の14年間の治療経験(原著論文/症例報告)

Author:吉岡真由美(東京都立心身障害者口腔保健センター), 関野仁
http://www.meteo-intergate.com/img/journal/cp9perlo.jpgSource:日本歯周病学会会誌(0385-0110)52巻3号 Page245-254(2010.09)
Abstract:本報は、長期間ホームケアの確立が困難で、歯科診療に対しても不適応行動の見られた自閉症スペクトラム患者に対し、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行ったことで、患者や保護者の行動変容につながった症例について報告する。患者は25歳の男性で、歯肉からの出血を主訴に当院に来院した。口腔内は全顎的に多量のプラークおよび歯石が沈着し、歯肉の著しい発赤と腫脹が認められた。初診から10年間は、患者の歯科治療に対する不適応行動や歯科衛生士の歯周治療に対する経験不足から、歯周疾患を診断するための検査が行えなかった。この間は、口腔衛生指導、歯肉縁上スケーリングとプロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング(PMTC)を継続したが、歯周疾患が進行している徴候が認められた。担当医の変更に伴い、行動変容法を応用しながら検査を行い、治療方針を再検討した。SRPを行った結果、歯周組織は改善し、患者の歯科診療に対する協力性の向上や、口腔内の自覚症状に対する自発的な要求の発現などの行動変容が認められた。また、保護者によるブラッシングに対しても不適応行動が軽減したことで、保護者も積極的に患者に関わるようになった。自閉症スペクトラム患者における歯周病の症状の改善は、患者の日常生活における行動変容につながり、また、保護者の意識や行動に対しても影響を与えることが示唆された。

PDF