(Pihko, et al. 2007) バイリンガルSLIの脳機能

現時点では、残念ながらバイリンガルSLIを早期に客観的に診断する方法はない。「一時的セミリンガル」と区別がつかないのだ。バイリンガルSLIには早期介入が有効と言われて入るものの、早期診断ができない以上有効な治療手段がないということになる。しかし将来的には、バイリンガルSLIの脳機能を画像的にモニタリングしながら、適切な治療が受けられるようになるのかもしれない。

Cereb Cortex. 2007 Apr;17(4):849-58. Epub 2006 May 17.

Group intervention changes brain activity in bilingual language-impaired children.

Pihko E, Mickos A, Kujala T, Pihlgren A, Westman M, Alku P, Byring R, Korkman M.
BioMag Laboratory, Helsinki University Central Hospital, Helsinki, Finland. pihko@biomag.hus.fi

Abstract
This investigation assessed the effectiveness of a phonological intervention program on the brain functioning of bilingual Finnish 6- to 7-year-old preschool children diagnosed with specific language impairment (SLI). The intervention program was implemented by preschool teachers to small groups of children including children with SLI. A matched group of other bilingual children with SLI received a physical exercise program and served as a control group. Auditory evoked magnetic fields were measured before and after the intervention with an oddball paradigm. The brain activity recordings were followed by a behavioral discrimination test. Our results show that, in children with SLI, the positive intervention effect is reflected in plastic changes in the brain activity of the left and right auditory cortices.

PMID: 16707736 [PubMed - indexed for MEDLINE]
Group intervention changes brain activity in bilingual language-impaired children. - PubMed - NCBI
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集団介入はバイリンガル言語障害児の脳活動を変化させる
この研究は、特異性言語障害(SLI)と診断された6ー7歳の就学前児童のバイリンガルフィンランド人の脳機能における音韻額的介入プログラムの効果を評価する。介入プログラムは保育園の教師により、SLI児童を含む小児の小規模のグループに対して実行された。SLIを伴う別のバイリンガル小児のマッチさせたグループには、身体運動プログラムを行わせ、対照群とした。介入の前後に、オッドボール課題とともに聴覚誘発脳磁場を測定した。脳活動の記録は行動判別試験によりフォローした。以下のような結果を得た。SLI小児においては、陽性の介入効果が左右の聴覚皮質の脳活動の可塑的な変化として反映された。

聴覚誘発脳磁場 Magnetoencephalography, MEG

聴覚刺激により、脳の神経細胞の活動にどのような変化が生じるのかを調べる検査。人の脳の神経細胞の働きを見る方法としては、脳波計と脳磁計がある。脳波計は様々なノイズが乗りやすいこともあり、脳磁計のほうが精度が高い。

脳の神経細胞の活動そのものを非侵襲的に記録するには、神経細胞が生じる電気的活動を脳波計(Electroencephalography, EEG)によって記録する方法と、その電気的活動によって生じた磁場(脳磁場)を脳磁計(Magnetoencephalography, MEG)によって測定する方法とがあります。いずれも増幅器を介してミリ秒単位で活動の時間経過を観察することができるものですが、EEGによる記録は、神経細胞によって生じる電気的活動が電導率の異なる髄液や骨、皮膚を通して伝播する必要があるため、その過程で脳波信号は複雑に変化してしまいます。また、記録電極を電極糊で頭皮に接着する必要があります。
一方、神経活動によって生じた磁場は神経細胞から磁場記録コイルまでの距離に依存して強度は減衰するものの、磁場の通りやすさ(透磁率)は脳、髄液、骨、皮膚および空気でほぼ一定のため、測定コイルを皮膚組織に非接触のまま、神経細胞が生じた磁場を直接記録することができます。MEGは、頭皮上に配置した多数の測定コイルで記録された脳の磁場分布(脳磁場)から、脳の神経細胞がいつ・どこで活動したか、を高い精度で計算すること(電流源推定)を可能とする脳機能測定機器です。

オッドボール課題 oddball paradigm

高次脳機能の評価を MEG で行う方法の一つに、ミスマッチフィールド (MMF) の計測がある。この MMF の具体的な方法の一つがオッドボール課題である。異なる頻度の刺激をランダムに提示し、高頻度刺激と低頻度刺激の反応の差を計測する。

聴覚刺激を用いて,課題を工夫することで高次脳機能を反映する脳磁界反応を計測することができる.主なものでは,ミスマッチフィールド(MMF: Mismatch fields) の計測が行われている.MMF は聴覚刺激の記憶に関わっている反応と考えられており,oddball課題を使って計測される.oddball課題とは呈示頻度の異なる複数の刺激をランダムな順番で呈示するという課題である.高頻度刺激に対する反応と低頻度刺激に対する反応との差が MMF である.高頻度刺激に対して形成された記憶と低頻度刺激とのミスマッチが MMF を引き起こすと考えられている.MMF は脳波において観察されるMismatch negativity に対応するものである.周波数, 音圧,呈示時間などの様々な刺激音の属性のミスマッチによる MMF が報告されて いる.また,刺激呈示間隔やリズムによっても MMF が生じることが報告され ている.そして,合成音を呈示したときのフォルマント変化など,音声特有のパラメータの変化に対しても MMF が報告されている.
(渡辺 2003) 脳磁界計測による人の聴覚特性に関する研究 -複数音処理機構の解析-